憧れの人
部長は私に協力会社で一年ぐらい勉強してこないかと言った。
その頃の私は仕事が楽しくて湧き出るようなやる気を感じたし、部長を尊敬し憧れていた。
不安もあったが、「行かせてください」と返事をした。
理由はわからないが、結局その話は実現しなかった。
それでも私は部長の気持ちが嬉しくて、自分で勉強して制作を開始した。
それから1年経ったころにはもう少しで部長の思いを実現できるところまで来た。
そんなある日、月曜なのに朝礼は副部長だった。
「昨日、部長が倒れました。」
部長は癌で、即入院だった。
しばらく経ったころ、ふいに部長が会社に来た。少し痩せたように見えたが相変わらず格好良かった。
その頃には私は仕事を完成させており、まずまずの結果を出していたのだが、その事は部長の耳にも入っているらしかった。
「お〜お前、良くやったなぁ、なんで(その商品に)俺の名前付けねえんだ」
部長は私の少し遠くから歯を見せて笑いながら言った。私は緊張しながらも泣きそうになったのを覚えている。
それが部長の声を聞いた最後になってしまった。
尊敬し憧れた部長に私は少しでも近づけただろうか?
あの格好良さには遠くおよばないが、仕事を楽しむことに関しては少しだけ近づけたのではないか。
あの世と言うものがあるとしたら、部長はきっと私を褒めてくれているのではないかと思っている。
部長と今の私とでお酒を飲めたら。
考えただけでも胸が詰まる。